あなたは夢、あなたは光

guerrilla loveさん観測所です。主に戸塚祥太さんの舞台の観劇記録を書いています。

舞台『緑に満ちる夜は長く…』観劇記録

観劇日

3月2日(昼) @東京 新国立劇場小劇場

3月2日(夜) @同上

3月3日(昼) @同上

3月30日(夜) @大阪 COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

3月31日(昼) @同上

3月31日(大千穐楽) @同上

 

あらすじ

 
雪深い田舎町。そこにぽつりと建つ一軒家。緑川家。

残雪の三月、緑川家では母アキナ(高橋由美子)の葬儀が行われていた。男四兄弟を女手ひとつで育てあげたアキナ。その母を看取ったのは母と共に暮らし、とあるハンデを抱えつつ、介護をしていた三男ユウ(戸塚祥太)だ。連絡を受け、長男ゴウ(加藤虎ノ介)、次男カイ(山口森広)、四男ケイ(溝口琢矢)も実家に帰ってきた。久しぶりに顔を合わせる兄弟たちのあいだで昔のことを思い出し、懐かしんだ。

弔問客が出払ったあと、まだ一人残っていた人物がいた。ベテランの鍵屋(坂田 聡)の人間だった。母の遺品を整理した際に見つかった金庫。その金庫を開けるべく、ゴウが街から鍵屋を呼んだのであった。やがて金庫の鍵が開けられた。そこに入っていたものとは・・・・・・。

『緑に満ちる夜は長く・・・』公式ホームページ | 2024年3月上演 | 公演情報やキャスト紹介


ストレートプレイ(大好物)!!家族とかの話は個人的にちょっと苦手分野ではあるんだけど、愛おしい緑川家の面々に毎回泣かされてしまった…

正直全回泣くってほとんどないですよ…特に結末からセリフから何から何もかも分かっている状態で観る2回目以降ですら泣けるって相当だよ…というか回を重ねるごとにいろんな発見があったりして、そこに想いを馳せて泣いてしまう…とかもあった。

 


緑川ユウという人は、基本的に無表情だし、言葉尻もど直球で強めなのでかなり分かりにくいのだけど、とても愛情深く、優しい心の持ち主だと思う。それはたとえば、疎ましく思っているはずの鍵屋のために切れている灯油を補充したり、車の雪かきを促したり、停電したときには真っ先に「ちょっと見てくる」と飛び出したり…表情豊かに振る舞う他の家族たちと比べると異質にも見えるけれど、ちょっとした行動に心根の優しさが滲み出ている。内に秘めているさまざまな感情が渦巻いているけど言葉にできなくて、それがいちばんわかりやすい怒りとなって表出していただけなんだと思う。

物語を進行するユウのモノローグでは、彼の"感覚の鋭さ"みたいなのも見てとれた。溺れた川底で見た藻の光景の表現だったり、離婚届の紙の薄さに憤ったり、その文字が緑色なことを皮肉に受け取ったり…落ち着いて淡々とした語り口とは対照的に、言葉選びに鮮やかな彩りを感じました。

序盤は会話をするにも目を絶対に合わせなかったユウが、物語が進行するにつれて少しずつ、徐々に目線を合わせるようになっていったのも、ぱっと見だと分かりにくいユウの心の動きがわかるめちゃくちゃ細かい表現だったし、緑川ユウという家族想いの優しい人そのものだったと思う。

ラストシーンで、ユウがお父さんのことを初めて「じゃあ父さん、入ってきて!」と"あの人"や"この人"ではなく、"父さん"と呼んだ瞬間に「ああ、本当に雪解けしたのだ」と感じました。幼少期の描写や、現在の頑なに凝り固まった様子をお芝居を通してすべての場面で丁寧に積み重ねてきたからこそ、さりげない呼び方ひとつですぐ分かる。

(生き別れた当時は"パパ"と呼んでいたはずなので、本当に生まれて初めて"父さん"と呼びかけたことになる、というところも含めて泣けてくる。心の中ではずっとそう呼んでいたのかなとか…泣)

 


今回の舞台は、キャストのみなさんのお芝居が最高なのは言わずもがな、構成・脚本・舞台演出がとにかく素晴らしかった。私の舞台の好きなところが全部詰まってる!って感じだった。

小道具ひとつとっても、たとえばお母さんの手作りパペットが冒頭のごっこ遊びだけでなく、幼少期の回想シーンにも効果的に使われている。ユウとケイが川で溺れてしまうシーンなんか、緑川家においてはかなり重要なシーンだと思うのだけど、パペットを使うことで視覚的にも分かりやすいうえ、実際には深刻で苦しくて重いシーンが少しポップに伝わる絶妙な演出だったと思う。

舞台の構造もおもしろくて、視覚的には二階建てのようになっているのだけど、キャストのみなさんの会話や目線を通してふすまと廊下を隔てた隣の部屋として存在していることが分かる。それだけではなく、ユウがお父さんの写真を火に焚べる印象的なシーンに使われていたり、ケイと赤木くんがいる川の向こう岸に使われていたりと、繰り広げられる物語に奥行きが出て、立体的になる仕掛けになっていてすごく好きだった!

脚本にしても、自然な流れからの細やかな伏線回収が心地よい。

冒頭の原宿でクレープを食べた話は、単純に母が東京に行った時の話ではなく、実は父と母の新婚旅行の想い出深い記憶の話で、ユウと母が2人で過ごした最後の日々に繋がる(この回収の仕方が辛くていちばんエグいなと思った、めっちゃしんどかった) 。幼いユウが「お父さんに手紙を書く!」とやたら手紙に拘っていたり、写真を燃やすシーンでお母さんが「手紙も燃やしちゃおう!」と言っていたのは、終盤で金庫から手紙が出てくるシーンに繋がる。ゴウ兄ちゃんとケイが、セリフの中でお父さんとのわだかまりが解けることを"雪解け"と印象的に表現していたら、最後に家の周りに積もっていた雪をお母さんが優しくはらうことでほんとうに解けた。

欠けた状態で始まった家族の戦隊ヒーローごっこ遊びが、ラストシーンで初めてフルメンバーでの完成を見せる構成の巧さも堪らない。「そうか、私これが見たかったんだ」と素直に思いました。泣きながら笑って、あったかくて幸せな気持ちで終わる。結局ゴリンジャーハリケーンとは一体どんな技なのか…ボールを蹴ったあと、ダンボール仮面は一体どうなってしまうやつなのか…それは分からずじまいなのもいい笑

 


とにかく去年の6月の夜曲以来、久しぶりに浴びた戸塚くんのお芝居が素晴らしくて…。観劇しているこちら側も身体に力が入ってしまうほどの緊張感みたいなものが常にあったのですが、実際、私がファンになってから出会ったどの役よりも難しかったんじゃないのかな…と感じました。カテコでお面を取った瞬間に"戸塚祥太"に戻り、柔和に緩む表情に毎回安堵しました。


戸塚くんが「役を生きてるな〜!」という瞬間がいろんなところで見受けられたのもすごく良かった。細かいところでいうと、玄関に履き捨てられていたゴウ兄ちゃんの靴をすぐ履きやすいようすっと揃えた(次のシーンでゴウ兄ちゃんが靴を履く)日があって(2日の夜公演だったかな…)、芝居の流れを止めない、っていう意味合いも勿論あったとは思うんだけど、愛情深いユウというキャラクターとも矛盾しないところにグッときました。

そういう、ちょっとしたトラブルみたいなものも瞬時にお芝居に取り込む感じとかが、まさに"ジャズ"で、毎回セッションしてんな〜って感じだったのがものすごく良かった。大千穐楽、最後の一回で熱くなりすぎてセリフの言い回しが少し変わってしまったのもジャズだったしめちゃくちゃライブだった。それぞれがそれぞれの役を生きていたし、セリフの抑揚や間、クライマックスに畳み掛けるように語気を強めたり、その日その時その瞬間の"場"を乗りこなしている感じがした。めっちゃジャズ!

 


事前のインタビューであったり、パンフレットの田村さんとの対談でも明確に言及してあったのが、田村さんは"基本的に脚本は当て書きをする"ということ。

お母さんも、ゴウ兄ちゃんもカイ兄ちゃんもケイも、お父さんも、役を脱いだ普段の様子こそ知らないけれど、お人柄が見える役柄だなあ〜と感じたのだけど、一回観ただけでは戸塚くんも"当て書き"ということを理解できなかったかもな〜と思う。だって戸塚くんはあんな、ユウくんみたいにめんどくさくな…、、、あいやめんどくさいか…めんどくさいな!?(でもそこがめっちゃ好き)

アイドルや俳優の肩書きだけではなく、いろんな一面がありすぎて、でもそのどれも紛れもなく"戸塚祥太"で、どこかで矛盾しそうでしない、とても魅力的なひと。同時にすこしの危うさも内包していて、ひとつ掛け違えて、この芸能という世界にもしいなかったら…思いがけずユウくんを通して戸塚祥太という人のことをまたひとつ理解できたような気がする。ユウくんの存在があることで、掴めそうでいまいち掴みどころのない戸塚くんの輪郭が浮かんでくるような気がしました。まあでもほんと、こんないちおたくに掴まれることなく、理解されることから一生逃げ切って欲しくはあるよね!笑 私もたぶんめんどくさいおたくなんだと思うわ笑

照明に照らされて、セットのふすまや白い壁に戸塚くんの影が落ちる瞬間があったのだけど、めちゃくちゃ美しくてさ、イケメンは影すらも綺麗なのか…とんでもねえな…などと、ストーリーと全く関係ないところでもいたく感心していました。おわり。

 


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東京公演の会場である新国立劇場(小劇場)。初めて来たけど、会場の周りが静かで落ち着いていて、すごく素敵だった。バルコニー席があるということで、B席でも観劇しました。上から見下ろすようなかたちになるので、川の描写の回想シーンで、裏方に回っているユウとケイの姿が上から見れてしまうのがおもしろかった。いろんな角度で観れたのがいい経験だった。コンパクトで観やすくて、いい会場だったな。

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大阪公演の会場であるTTホール。お向かいのWWホールは『今度は愛妻家』の時に来たことがあったので、お久しぶりです!という感じだった。TTホールのほうが小さめ。開場前に、大阪城の周りを散歩してから観劇できて良かった。桜がまだ全然咲いてなかったのがすこし残念だったけど、作品の季節設定とは絶妙に合っていて(冬の終わりと春の始まり)、雪解けを待っているのかも!?と思った。

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(これは桜ではないよね?)

福岡に帰ってきた次の日には桜が咲いていて、ああ、春が来たんだな、と思った。愛おしくてあったかい冬の終わりの1日だった。

 

Giga

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Gaudi San

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Utauyo

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Yume

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Nannimonai Uta

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  • シンガーソングライター
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Moon River

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Mast

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